チェスキー・クルムロフ城はゴシック?バロック?それとも・・・
初歩の初歩、入門者が見た中・近世の西洋美術
今回の旅行で新たに興味を持ったのが、西洋の美術である。
これまでほとんど関心を持っていなかったのだが、この度、中・近世の建築・絵画・彫刻などを見て、その美しさや素晴らしさに魅かれた。単に素晴らしいと思うだけでも、心にとって良いことであろうが、理解出来ればさらに良い。西洋の美術と言っても、時代によって異なる。つまり、政治・宗教・市民の意識・そして経済的背景が異なることにより、表現される芸術も異なるのだ。
そこで西洋美術を見るにしても、これら諸要素をベースにした、自分なりの“ものさし”が必要だと思い、簡単に纏めて見た。詳しい方にとっては、「なんだそんなことか」と言う内容であろうが、入門者が、興味を深めていく第一歩として役に立つのではないかと考えている。題して、「初歩の初歩、入門者が見た中・近世の西洋美術」である。
まず全体の流れから。中世・近世の西洋美術の流れを大きく捉えると、「ロマネスク→ゴシック→ルネッサンス→バロック→ロココ」の順である。
①ロマネスク
歴史的に見ると、ゲルマン民族の大移動の後、ヨーロッパ各地にゲルマン民族の独立国家ができ、各国は主にキリスト教を国教にした。諸国の中ではフランク族が勢力を伸ばし、さらにその中でもメロヴィング朝が栄え、独特の装飾文様を持つメロヴィング朝美術が生まれた。次いで同じフランク族のカロリング王朝が栄えた。この時代は古代ギリシャ・ローマの芸術の復興を目指していたのだ。その後カロリング朝の分裂、ノルマン人の侵入などでヨーロッパは混乱したが、やがて封建制度が確立され、キリスト教文化が全ヨーロッパに広まると共に、メロヴィング朝以来の美術も統合され、一つの様式を生み出すことになった。これがいわゆる「ロマネスク美術」である。10世紀から13世紀のキリスト教美術と言える。この時代には、各地に教会が建てられ、この教会を中心に浮彫や壁画、写本芸術が盛んになった。
ロマネスク建築は石造りで、その重い屋根を支えるため、壁も分厚く、重々しい構造になっている。天井のアーチは特徴的である。
②ゴシック
12世紀ころのフランスが起源。政治・経済の中央集権化が進み、都市が発達、大聖堂などが次々に建てられた。ゴシックはこの建築から始まり、その特徴は尖った屋根、それを支える無数のアーチ、そして高窓である。垂直線が強調され、建物内部にふんだんに外光が取り入れられているのも魅力。壁を窓で埋めるゴシック建築ではステンド・グラスが全盛となった。円柱に人物像を刻むゴシックの彫刻も面白い。
ところで、「ゴシック」という言葉は、16世紀のイタリア人が用いたもので、「ゴート人の粗野な建築様式」という意味のようだ。
③ルネッサンス
イタリアを中心に14世紀から16世紀にかけてヨーロッパ全域に広がった美術・文芸・文化上の革新運動をルネッサンスと言うが、それまでの中世が完全に“神の支配下の世界”であったのに対し、ルネッサンスは人間を中心とした世界観、人間性の回復を目指した。ルネッサンスの風潮は、古代ギリシャ・ローマの世界観を見直し、その芸術を賛美する形をとっている。
建築では、豪華な宮殿や私邸が多く、世俗的な市民の建造物が次々に建てられた。彫刻も中世のように建築の付随的芸術としてではなく、独立した芸術として造られるようになった。
人間性回復と言う点は、絵画に最も良く表われており、礼拝堂の壁画などにも数々の作品が残されている。ルネッサンス期は、一般に初期、前期、盛期、後期に分けられているが、ここでは触れない。
④バロック
ルネッサンスの近代精神の波は、16世紀後半、全ヨーロッパに広がり、17世紀にはドイツ・オランダが新教国として出発し、国内の統一も果たした。このような時代に広まった美術様式がバロックである。理知と均衡を特徴とするルネッサンスに対し、バロックは不規則で、激しい動勢、燃え立つ情念、躍動ある生命力といった激しい感情の表現が特徴である。建築では、静かで秩序正しいルネッサンス様式に対し、バロック様式は不均衡で力強い動感を有している。また、周囲の空間を構想に入れた彫刻にも特徴が見られる。
⑤ロココ
貴族社会から生まれたこともあり、軽快、優美、典雅さが特徴である。フランス・パリを中心とした自由奔放な貴族趣味と、富豪たちの享楽主義という当時の時代背景から生まれた。しかし、18世紀末の人権宣言をはじめとするフランス革命の勃発によりブルボン王朝と貴族階級は衰え、それと共に貴族的趣味であるロココに対する反発も強まり、やがて衰退していったのである。
さて、以上を予備知識として、今回の旅行で見た芸術、特に教会、礼拝堂、お城などの建築物を中心に見てみると、これまでとは違った感じで鑑賞できる。
まず中・近世の建築物が混在して残るチェコのプラハ市内からみる。
旧市街広場の真ん中に立ち、グルリと一回転すると、ゴシック、ルネッサンス、バロックを見ることができる。
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「ティーン教会」、先の尖った屋根。まさにゴシック。そしてルネッサンス様式の美しい飾り屋根と案内書に書いてあるのだが、どの部分か私には分からない。
「旧市庁舎塔」、これもゴシック。これにもルネッサンス期の装飾が施されているという。
「聖ミクラージュ教会」はバロック。ゴシック様式とは明らかに違う。たまねぎ型の大きなドーム状屋根、丸みのある塔が特徴的である。ただ、不均衡で力強い動感というのが分からない。この建物のような感じがそうなのであろう。
「ゴルツ・キンスキー宮殿」、これはロココ。優雅さを感じることが出来る。波打ち際の波が丸くなったようなソフトな感じ、ロココの特徴が出ている。
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旧市街広場から少し東に行ったところにある「火薬塔」。これは疑いなくゴシック。屋根の尖り、垂直な線、高窓とゴシックの特徴を備えている。
今度は旧市街広場から少し西に行くと、「カレル橋」がある。橋の旧市街側橋塔はゴシック。これも典型的なゴシック建築だ。
次は「カレル橋」を渡った向こうにあるプラハ城。城内にある「聖ヴィート大聖堂」もゴシック。ここは中に入ったが、ステンド・グラスが美しい。このステンド・グラスの中には、ミュシャの作品もある。余談であるが、先日(5月15日)、TVでミュシャがチェコの独立、スラブ民族の統一に尽力したと言う内容の番組と、チェコのユダヤ人地区について解説する番組を放送していた。これまでであれば見なかったと思うが、先日は興味を持って見てしまった。
同じく城内にある「聖イジー教会」はロマネスク。2本の白い尖塔を持っているので、お城の高いところから見ても良く分かる。しかし、ロマネスクの重量感を感じることはできなかった。どこかロマネスクの特徴とは違うように感じたので、解説書を読むと、17世紀に初期バロック様式のファサード(家屋の正面の外観)が造られているという。様式が混在しているので、初心者の私にも違和感があったのだ。
最後にチェスキー・クルムロフ城をみる。ここは、ガイドの話だと、「それぞれの時代の様式が見事に調和した複合建築物」と言うことである。領主が変わる毎に増改築が行われたため、複合建築物になったようだ。
案内書を見ると、13世紀にヴィートコヴィツ家の分家の居城としてゴシック様式で建てられ、16世紀にロジェンベルク家がルネッサンス様式で、18世紀初頭にエッゲンベルク家がバロック様式で、さらに18世紀後半にはシュヴァルツェンベルグ家がロココ様式でお城に手を加えていったという解説がされていた。
写真で振り返ると、多分この当たりがバロックで、ここがロココではないかといった推測は出来る。旅立つ前に、今回まとめた程度の知識を得ておけば、当日はもっと楽しかったのではないかと考えると残念である。絵画や彫刻についても同じである。
本稿では中・近世の西洋美術について概観したが、古代ギリシャやローマ、エジプトやメソポタミアの美術もあるし、新しいところでは新古典主義やロマン主義、印象主義など様々なスタイルが見られる。今後の旅の楽しみを増やすためにも、政治・経済などの背景と共に美術についての知識を増やしていく必要性を感じた。


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