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July 25, 2006

イギリスの「金本位制」

貨幣ぶらり旅(第90回)

6月28日付貨幣ぶらり旅(第86回)で、「ラテン通貨同盟」について投稿した。「金銀複本位制」を採っていたラテン通貨同盟加盟の国々も、イギリス式の「金本位制」に移行したことから、ラテン通貨同盟はその意義を失い、1927年に解散したことを述べた。今回はこれに関連して、なぜイギリスだけが「金本位制」を採っていたかという点についてお話しする。

まずイギリスの「金本位制」だが、これについてはイギリスが意図して始めたことではなかった。つまり偶然の積み重ねの結果、「金本位制」をとることになったのである。

第一の偶然は、ポルトガルと結んだ「メシュエン条約」だ。産業革命前、17世紀のイギリスも当時のヨーロッパの強国と同様、重商主義政策を採っていた。そのため、海上の安全確保と海上覇権獲得を目的として戦争を繰り返していた。このような時代に、戦火を交えることなく外交で成立した条約が「メシュエン条約」である。この条約は、ポルトガルが輸入禁制品に指定していた毛織物の輸出をイギリスに認める一方、イギリスはポルトガル産ワインの輸入関税を低率にするという内容のものであった。当初ポルトガルおよびその植民地であるブラジルの購買力は低く、この条約のメリットは少ないと思われていたが、ブラジルでゴールドラッシュが起こったことにより事態は一転した。つまりブラジルが金を産出したことにより、ポルトガル・ブラジルの購買力が増したため、イギリスは毛織物を輸出することで莫大な金を受け取ることが出来るようになったのである。

第二の偶然は、ヨーロッパでの金銀交換比率が「金:銀=1:15」の時に、イギリスの植民地であるインドでの金銀交換比率が「金:銀=1:10」と銀高であったことである。この場合、銀10をインドで金1に交換し、その金をヨーロッパで銀に交換すれば15の銀を受け取ることが出来るので、銀5の儲けが出る(金銀の輸送は可能で、輸送コストや手数料は無視する)。これに銀5を加えて銀10を再びインドで金1に替え、当該金1をヨーロッパで銀に交換すると、更に銀5の儲けが出て、トータル銀10の利益を得ることが出来る。これを繰り返せば、金銀を移動するだけで儲かるのだ。現在のように交通・通信・情報網が発達していない時代には、このような裁定は簡単に行うことが出来たのである。この結果、銀の流出、金の流入が続いた。

第三の偶然は、スペインの植民地であるメキシコの銀山やポトシ銀山(現ボリビア)などの大鉱脈が発見され、南米からの銀の流入が続き、銀の価値が大きく下落したことである。金銀交換比率は13世紀頃には「金:銀=1:9」であったが、16世紀には「金:銀=1:11」、18世紀の初めに「金:銀=1:15」にまで下落した。その後東インド会社による厖大な銀の搬出のため、一時的に銀の下落は止まったが、銀産出国でありかつ「銀本位制」を採っていたドイツが「金本位制」に移行した19世紀後半頃から、銀は底なしの暴落過程に入って行ったのである。ちなみに20世紀初頭には「金:銀=1:80」にまで下落している。

そしてこのように金がイギリスに集中している時、銀の下落を防ぐため、イギリスでは「1ギニー金貨=21シリング銀貨」の上限を設けたが、それでも金の流入は止まらなかったのである。その後も金の流入が続いたが、やがて高額貨幣であったギニー金貨も経済が拡大したおかげで、取引に不便な珍しいコインではなくなっていた。

余談になるが、「1ギニー金貨=21シリング銀貨」を定めたのは、アイザック・ニュートンである。リンゴが落ちるのを見て「万有引力の法則」を発見したことで有名な物理学者だ。ニュートンは科学者であるとともに錬金術師で、最後はイギリス造幣局の長官を務めたのである。180度の大転進と言って良いであろう。

話を戻すが、以上のように金がイギリスに集中し、かつ世界的に植民地を持ち、貿易の中心となって決済のネットワークを構築したことも手伝い、金を本位貨幣とすることになった。1816年、「金本位法」により「金1オンス=3ポンド17シリング10.5ペンス」として金を唯一の価値尺度として定めたのである。そして1817年7月にはこれまでの「ギニー金貨」に代わって新しい「ソブリン金貨」が発行された。これは「金本位制」の象徴的なコインと言っても過言ではない。


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