特別展「香炉―東アジアの香りの文化をたどる―」
茶の湯ぶらり旅(第20回)

特別展「香炉―東アジアの香りの文化をたどる―」を見るために、和泉市久保惣記念美術館(写真)に行って来た。「香炉」なので、「茶の湯ぶらり旅」シリーズにするのもどうかと思ったが、かつては茶の湯でも使われていたことから、ここに記すことにした。
ご存じのとおり、「香炉」は香を焚くための器である。「香(こう)」は、香(かおり)によって臭気を除く効果から、不浄を払うものとして宗教儀礼で重視され、仏教では花瓶、燭台とともに「香炉」は重要な器として扱われたという。このような「香炉」だが、香木が高価であったこともあり、行事や儀式、富裕な人々の嗜好の中で使われた豪華なものが残されている一方、装飾を省いた仏具や、茶の湯で用いられた陶磁製の素朴なものも存在している。本展覧会では、古代から近世にかけて、日本、朝鮮、中国で作られた金属器、陶磁器、木漆器などの約150点を展示している。「博山炉」や「阿古陀(あこだ)形香炉」、「柄香炉」、「火舎香炉」など、興味を引くものばかりである。今回は、これら展示の中から5点をご紹介する。なお、説明文は展示解説から引用したことをお断りしておく。
① 「青磁・袴腰(はかまごし)香炉」(重要文化財)[中国・南宋時代/出光美術館蔵]

南宋時代の浙江省・龍泉窯で製作された青磁は、鎌倉時代には大量に日本に輸出されていた。教徒や鎌倉の寺院では、今も南宋時代の花生や香炉の優品が遺されている。袴腰香炉は、袴をはいたような形から付けられた呼称で、器形の元となったのは、中国古代の鬲(れき)という足が袋状になった器である。器形は古代の青銅器に倣いながら、古代特有の獣面文などの文様装飾は省かれており、厚くかけられた釉薬が生み出す青磁の美しさを、いかにこの時代の人々が愛好していたかがうかがわれる。
② 「青磁彫刻・鴛鴦蓋(おしどりぶた)香炉」[朝鮮・高麗時代/大阪市立東洋陶磁美術館蔵]

鴛鴦が蓋に接合されて、蓋に開けた孔を通って鴛鴦の口から香煙が出る作りになっている。頸周りの羽などに片切彫りを使い、背の扇状の羽や胴部の羽などには線刻を用いて、細部の表現をしている。蓋の傾斜面には霊芝雲文、側面に雷文を線刻している。口部に鍔(つば)状の縁を設け、傾斜面をつけた側面下部に3本の足が付けられている。鍔状の縁と3本の足を持つ炉の状態は、唐時代の5足形の香炉から続くものである。高麗青磁には、この形の炉の上に獅子を載せた作品もある。鴛鴦は夫婦の円満を象徴する鳥として、高麗の絵画や工芸の意匠に好んで用いられている。
③ 「色絵・花唐草文獅子鈕蓋(ちゅうふた)香炉」[江戸時代/戸栗美術館蔵]

透明釉の下の染付(青花)の青と、釉上に描かれた赤、金、緑によって鮮やかに彩られた香炉。花を赤で描き、花芯に金彩を施す。唐草文の蔓(つる)と葉を染付で描き、蔓の所々に緑色で葉を小さく描いている。蔓の中心に獅子形の鈕(つまみ)を付け、縁近くに花形、団扇形、ハート形の煙孔が開けられている。伊万里焼(佐賀県)は、江戸時代初期から磁器の製作が始まり、多色を施す。色絵磁器の製作も、江戸時代中ごろに始まる。この作品は、17世紀後半末頃に制作されたもので、端正な器の仕上がりや赤と青の鮮やかな絵付けから、当時の伊万里焼の目指した色絵磁器の美しさを見ることが出来る。
④ 「鉄銀象嵌・花鳥文鼎形(かなえがた)香炉」[朝鮮・朝鮮王朝時代/高麗美術館蔵]

長方形の4本足の鼎形香炉で、中国倣古器の影響を受けた器形である。炉は側面・底面を接合して作り、耳、足も別作りしたものを接合している。器面全体に銀象嵌が細かく密に施されている。蔓には雷文と波状文を施し、中央の鈕を囲んで煙孔が設けられている。炉の側面には、枠内に牡丹のような花と2羽の鳥が表され、枠外には雷文が表されている。器形は中国古代の方鼎の形をあまり崩さずに写している。祭祀での供香に用いられたもので、古式な器形は、その用途にふさわしいものであったと思われる。
⑤ 「臙脂紅(えんじこう)・八吉祥唐草文香炉」[中国・清時代/静嘉堂文庫美術館蔵]

臙脂紅は、上絵付けの技法の一つで、材料に色ガラスの粉と鉛の粉を用いている。濃淡のある絵付けができるのが特徴で、この作品では輪郭線や細部の描線を濃く、塗りつぶす部分を薄く使い分けをしている。八吉祥文は、幸福や幸運をもたらす意義を持つ、白蓋、宝瓶、連華、盤長、法螺、宝傘、宝輪、双魚の8つの文様のことで、胴側面に宝相華唐草文に混じって描かれている。厚く作られた口縁より一回り細く作った頸、肩から長く伸びた耳、丸みを帯びた足など、古代の鼎とは異なる造形が見られる。口縁に「大清乾隆年製」の銘が記されている(乾隆 : 1736~1795)。
以上ご紹介した5点以外にも、「響銅・鶄尾(じゃくび)形柄香炉」、「青銅鍍金・火舎香炉」、「純金・葵紋蜀江文沈箱」などの重要文化財や、香木(十種名香の内)も見ることが出来る。本展は、11月30日(日)まで開催されているので、一度ご覧になることをお薦めしたい。なお、11月5日以降は一部展示替えになるのでご留意願いたい。
※写真は本展チラシより掲載した。
和泉市久保惣記念美術館のHP
http://www.ikm-art.jp/tenrankai/index.html


Comments
大変興味深い物をご覧になられたのですね。火屋香炉はやはり真言密教の請来仏具として中国よりもたらされたのですね。これが台子の茶の中に取りこまれたことを知りたいと探しておりました。図録の写真を見たいものです。実際に中国の美術館で火屋香炉は見たことがないと聞いていましたが禅や茶の湯が日本で花開いたように 密教の仏具も日本に伝わっているものが多いのでしょうか。更なる興味が沸きます。
Posted by: ここちゃん | March 20, 2009 at 06:32 PM