無形文化遺産シンポジウム&ベトナム民俗芸能団公演
無形文化遺産シンポジウム&ベトナム民俗芸能団公演
先日(2月20日)、堺市が主催する「無形文化遺産シンポジウム&ベトナム民俗芸能団公演」に行って来た。会場は、「リーガロイヤルホテル堺」4階のロイヤルホールである。
全体は2部構成で、【第1部】の「無形文化遺産シンポジウム」のテーマは、「生きつづける文化―無形文化遺産の伝承と発展―」で、国立民族博物館名誉教授「藤井知昭」氏がコーディネーター、「大貫美佐子」(財)ユネスコ・アジア文化センター文化協力課長、「福岡正太」国立民族博物館文化資源研究センター准教授、「白庚甠」中国文学芸術界連合会書記処書記の3名が順に事例発表した。
【第2部】の「ベトナム民俗芸能団公演」は、「藤井知昭」氏が解説した後、文化庁が平成20年度国際民族芸能フェスティバルのために招聘した芸能団により、民間音楽、民族舞踏、民間劇などが演じられた。以下、それぞれについて簡単にお話しする。
【第1部 シンポジウム】
◎事例発表
(1) コミュニティから考える無形文化遺産条約とACCUの活動
発表者 : 大貫美佐子[(財)ユネスコ・アジア文化センター文化協力課長]
ユネスコの「無形文化遺産保護に関する条約」は2006年に発効し、今年2月5日時点で107カ国が批准しているが、なかでもアフリカやアジア、中南米の強い関心が伺える。無形文化遺産の多くが発展途上国にあるので、国際支援体制が重要である。アジア地域で見ると、次のような問題が指摘されている。
① 識字人口と教育
② 大都市への人口流出
③ 師匠の高齢化
④ 貧困
⑤ 戦争で失われた人材の確保
⑥ どこまで観光で受け入れるか(観光化による悪影響)
⑦ コミュニティの崩壊
独立して間もない国や新しく経済発展してきた国の場合、外国のものを高くする傾向があるため、伝統文化がないがしろにされがちである。またコミュニティが崩壊し、うまく伝承できない。そこでどのようにしてコミュニティを復活させるか、優良事例を集めるため、同センターではインターネットで優良事例コンテストを行い、事例収集に努めた。しかし、第一回目は80%が日本からのもので、外国からの応募は少なかった。原因は、募集の際に使用した言語が日本語、英語、仏語の3カ国語だったことにあったという。第一回目の経験を踏まえ、先日第二回目の応募を行ったところ、今回はキューバやベネズエラ、シリアなど、幅広い国々からも事例が寄せられた。
これらの中から、入賞したインドとタイ、日本の3件について、同センターHPの映像を使って説明があった。
1.インド、クッティヤタム(伝承サンスクリット劇)
http://www.accu.or.jp/ich/jp/community/kutiyattam.html
2.タイ、ナン・ヤイ(大型影絵人形劇)
http://www.accu.or.jp/ich/jp/community/nangyai.html
3.日本、黒川能(蝋燭能)
http://www.accu.or.jp/ich/jp/community/rosokunoh.html
このように、事例を集める努力はしているが、コミュニティに専門家が育っておらず、また「無形文化遺産保護に関する条約」ですら知らないため、どのように掘り起こしていくかは今後の大きな課題である。
アジア太平洋無形文遺産データーベース
http://www.accu.or.jp/ich/jp/training/curriculum/curriculum_3.html#
(財)ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)
http://www.accu.or.jp/ich/jp/
(2) 芸能の伝承と映像記録の役割
発表者 : 福岡正太[国立民族博物館文化資源研究センター准教授]
動きと音を記録できるビデオは、芸能の所作や進行、それに伴う言葉や音楽を記録するには最適のメディアであると考えられるが、これを芸能の伝承に役立てるには、様々な工夫が必要である。この点について、国立民族博物館によるカンボジアの大型影絵芝居「スバエク・トム」の映像記録を使い、説明があった。
・「スバエク・トム」は、ラーマーヤナを題材とする影絵芝居で、ウシの革(スバエク)に物語の一場面を彫り込んだものを用いる。演者は、ピン・ピアットと呼ばれる伝統的な音楽アンサンブルを伴奏に、スクリーンの裏と表の両側で演じ、舞踏的な体の動きも見せ所となるのだが、上演の要となるのは「語り」である。しかし、ポル・ポト時代に多くの演者が死亡し、要となる「語り」を受け継ぐ若者がいないのが現状だという。現在は亡くなったが、当時長老の「ティー・チアン」さんにインタビュー出来たことは貴重である。これらの映像を上映し、ビデオがどのように役立つのかを考えてみた。
<上映会の効用>
・芸を見つめ直す機会
・改めて芸能を振り返り、それが置かれている状況を考える機会
・園芸能に対して自分たちが何を出来るかを考えるきっかけ
<映像記録の可能性>
・単なる過去の記録としてではなく、芸能の伝承に資する資源として映像記録を生かす
・撮影・編集・公開までを、芸能の伝承プロセスの中に位置付けて考える
<問題点>
・無形文化財は人類共有の貴重な財産であり、無形文化財の保護は重要で、映像記録を残す事も有益だが、問題点もある。その一つが「秘伝」だ。大事なレパートリーや奥儀は、修業を積み、一定の条件を満たした者だけに伝えられるという「秘伝」は、その芸能を支える価値に由来するものだが、人類共有の遺産という大義名分により、芸能をになう人々の意向を無視して映像を公開した場合、その芸能を支える人々の社会秩序や価値観に大きな影響を与える可能性がある。
福岡正太・文化資源研究センター・准教授
http://www.minpaku.ac.jp/staff/fukuoka/
国立民族学博物館
http://www.minpaku.ac.jp/
(3) 無形文化遺産保存の中国の新しい取り組み
発表者 : 白庚甠[中国文学芸術界連合会書記処書記]
21世紀に入ってから、中国は文化遺産、特に無形文化遺産保護の新しい時代を迎えた。それは主に工業化、都市化とグローバル化による中国文化に対する挑戦に応えるためである。無形文化遺産を主とする文化遺産を保護する目的は民族性を守り、文化の安全を確保し、文化的ソフトパワーを強めるところにある。この文化的ブームの主な象徴の現れは、中華人民共和国文化部が提案・実施した「中国民族民間文化保護プロジェクト」及び中国文連に所属する中国民間文芸家協会が主管する「中国民間文化遺産緊急補修プロジェクト」である。これらの事業を効果的に行うために、国家が核無院文化遺産指導部を立ち上げ、文化遺産保護に関する部際会議制度を作り、適切な措置を取った。目下、無形文化遺産の保護は全国において盛んに行われ、全民族の文化的自覚を呼び起こし、国際孔子学院ブーム、百家講壇ブーム、第四回儒学の復興、伝統祝日ブーム、文化遺産観光ブームなどを引き起こし、中華文化の復興を促進している。
◎パネルディスカッション
当初、事例発表者によるパネルディスカッションが予定されていたが、時間が無くなったため中止された。パネリストの意見がぶつかり合うところを期待していたので、少し残念であった。
【第2部 ベトナム民俗芸能団公演】
◎ベトナムの民間の様々な芸能や儀礼を元にして構成した、民俗音楽、民俗舞踊、民間劇など
今回招聘された民族芸能は、北ベトナムのハノイを中心に伝承されているもので、以下の4演目が演じられた。
ベトナムの伝統的な民族歌劇と称される芸能で、歌、演技などによって、悲恋物語などが展開されていく、中国京劇の影響の強い宮廷歌劇ともいえるハット・トゥオンも古くから演じられ、村祭りなどの折、村の広場でも演じられたと伝えられ、現在はハノイのチェオ劇場はじめ各地に専門集団が組織されて多彩な公演を行っている。
写真 : 男装して出家した女性僧に、女の人が恋し、口説いて行くお話し。
民謡を基にしながら都会化された叙情詩であり、一人しみじみと心情を歌うなどのスタイルが多い。二胡だけの弾き語りのように歌う形や、それに太鼓などの打楽器も加えた伴奏で歌われることも増えてきている。
写真 : ベトナムの軍人は、詩を作るのがたしなみ。6・8調のものを作って弾き語りをする。今回は親への思いを歌う。
バクニン地方の民謡であり、村の祭りなどの時などに青年男女が歌をかけ合う形で歌い合う歌垣ともいえる形態である。ベトナム戦争中に現代風にアレンジされ歌謡曲のように歌われ、全国的にも広がって行った。現在もバクニン地方の村々では、古くからの伝わる歌だけの掛け合いの形式や現代的な楽器を用いるなどの多様なスタイルで歌われている。
写真 : ベトナム戦争の頃、彼が出陣する際に、彼女が私を一人にしないでといった内容を謳ったもの。歌謡曲にもなったという。
シャーマン儀礼を基にして、再構成され芸能化されて、神がかりの際、少数民族の神の霊がシャーマンに入り込むなどの状況を歌と踊りで表現するなどの型で演じられることが多い。
写真 : 少数民族の女の神様が、絶世の美女や貴公子など、色々な姿に変身して行く内容。
藤井 知昭国立民族学博物館名誉教授
http://www.minpaku.ac.jp/staff/emeritus.html
今回シンポジウムに参加して感じたことは、次の3点である。
第一は、科学が発達した現在、無形文化財の保護はますます難しくなるのではないかということ。無形文化財に指定されるもの、特に芸能的なものの起源を探ると、自然への敬いや恐れなどから始まったもの、信仰的なものが多いのではないだろうか。科学により自然現象が解明されていく現代にあって、信仰する心が薄れ、自然消滅して行くのはやむを得ないことなのかもしれない。
第二は、資本主義経済が発達した現在、無形文化財となるものを守るには、それを守ることによる経済的メリットが無いと、伝承者も現れないのではないかということ。日本の例で見ても、歌舞伎や能などは、保護だけでなく、興行することにより収入が得られ、経済的に自立できる基盤があるから伝承者も出てくるのであって、経済的に成り立たないのであれば、ボランティア的継承者が一時的に現れても、長続きはしないのではないだろうか。
第三は、中国における少数民族の無形文化財保護について、政治的に難しいものがあるのではないかということ。中国の少数民族問題については良くわからないが、少数民族の文化を尊重・保護する一方、経済的にメリットを感じさせることで、政治的安定を図る意図があるのかもしれない。
大阪駐在ベトナム総領事館
http://www.kisweb.ne.jp/jva/ryoujikan.html
(参考)
・会場配布資料「無形文化遺産シンポジウム&ベトナム民俗芸能団公演~しおり~」



















































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































