ルーブル建ロシア産原油先物取引所
ルーブル建ロシア産原油先物取引所
6月7日付の日経新聞によると、「ロシア政府は8月にもサンクトペテルブルクにロシア産原油の先物取引所を開設する方針を決めた。国際的な原油価格の形成で主導権を握る狙い。取引はルーブル建てとしており、原油取引の「基軸通貨」であるドルの相場にも長期的に影響を与える可能性がある」とのこと。この記事を読んで思い出したのが、2000年11月に原油取引を米ドル建てからユーロ建てに切り替えたイラクだ。イランやベネズエラもこれに続いた。原油取引をユーロ建てに切り替えたことが、現在も続く米軍のイラク攻撃の本当の理由だとも言われている。
それでは、何故ユーロ建ての取引が行われると米国にとって不都合なのか。それは米国が、米ドルの資金循環システムを維持できなくなるからである。ご存知のとおり米国は、恒常的な経常赤字と財政赤字といういわゆる双子の赤字を抱えているが、原油取引は米ドル建てなので、米ドルを印刷するだけで原油の調達ができる。また原油の取引が米ドル建てに限られている限り、他の原油輸入国も米ドルを必要とする。結果、米ドルを調達するため、財貨やサービスを米国へ輸出する。そして手にした米ドルで原油を購入、余剰資金は米国市場に投資され米国に還流する。原油輸出国が受け取った米ドルも米国に向かう。単純に言えば、これが米国経済を支えるマネーの循環システムなのだ。しかし原油取引がユーロなど他の通貨建てで行われるようになると、米国は他国の通貨を手当てする必要が生じる上、他の原油輸入国の米ドルに対する需要も下がってしまう。これでは米ドルの暴落と、米ドルの循環システムの崩壊に繋がりかねない。
ところで、何故米ドルが基軸通貨とされたのか。それは第二次世界大戦後、米国が圧倒的な経済力と金の準備高を持っていたからである。この米ドルを基軸とし、金1オンス=35ドルで兌換する金ドル本位制がいわゆるスミソニアン体制だ。しかし、その後日本やドイツなどが戦後復興を遂げて米国に経済力で迫ってきたこと、またベトナム戦争で浪費を続け資金的余裕がなくなってきたことから、1971年、米国はドルの金兌換を停止、かつ変動相場制を採用した。円・ドルで見ると、1971年の固定相場制のときは1ドル=360円であったが、現在は1ドル=120円程度と約三分の一に減価している。しかし、米国が抱えるいわゆる双子の赤字のことを考えると、まだまだ米ドルの価値は高いように思える。この高い価値を支えているのが、先程から見てきた原油の米ドル建て取引と米ドルの循環システムなのだ(相対的な高金利などはシステムの一要因と考える)。
さて、今回開設の方針が決められたルーブル建ロシア産原油先物取引所。記事にもあるように、今後米ドルにどのような影響を及ぼすのであろうか。ソビエト崩壊直後のロシアは、経済的に苦しい立場にあったが、エネルギー価格の高騰のおかげで一気に息を吹き返した。資源大国としての影響力を行使することで、さらに経済的覇権を得ようと目論んでいるのか。ロシアが戦略的にエネルギー資源を使う上で、今回のルーブル建ロシア産原油先物取引所は重要な役割を果たすであろう。米国が国内金融マーケットを充実させ、資金循環のシステムを作ったように、ルーブルも循環させる仕組みが必要だからだ。ロシアの計画に対して、米国はどのような対応を取るのだろうか。イラクの時のように爆撃することもできないし、為替による大幅な調整も避けたいところだろう。しかし、仮にロシア産の原油だけに留まらず、他の産油国の原油にまでルーブル建て取引が広がるのであれば、米国も黙ってはいられないだろう。ロシアは虎の尾を踏むようなことをするのだろうか。最近の米国の振る舞いに対するお灸程度で済めば良いのだが。米国・ロシアの動向と金融マーケットを注視する必要がありそうだ。

