マイ・コイン・コレクション(第34回)
今回ご紹介するのは、世界最初のコインと言われているリディア王国の「エレクトロン(エレクトラム)貨」である。エレクトロンとは、金と銀の自然合金のこと。


写真(上 : 表面・下 : 裏面)は1/3スタテル(※)・エロクトロン貨で、縦径 : 1.1cm、横径 : 1.4cm、品位 : 金2銀1ぐらいか? (金73%銀27%との説もある)、量目 : 4.72gで、表面にサルディスの紋章である「ライオンの頭」が刻印され、裏面には価値を示す長方形のくぼみが打刻されている。このタイプのコインは、ギュゲス王(在位680~640B.C.年)の時代である650~561 B.C.年頃に造られたものである。
(※)通貨の基本単位は「スタテル」(1スタテルは約14g)で、1/3スタテル以外に、1スタテル、1/6スタテル、1/12スタテル、1/24スタテル、1/48スタテル、そして1/96スタテルという小さな硬貨も発行された。
「エレクトロン貨」の名称については、古代ギリシャ語の「エレクトロン」に由来する。琥珀を意味する言葉として「エレクトラム」があるが、これは古代ギリシャ語の「エレクトロン」を語源とし、琥珀の黄色に通じる「輝くもの」の意味を持つ。そこで、金と銀との自然合金が琥珀の黄色と極似の色彩を帯びていることから、エレクトラムを素材とした貨幣のことを「エレクトロン貨」とよぶようになったのである。ちなみに、「琥珀には、その表面を布などで摩擦すると、その部分が枯葉とか紙切れといった小さくて軽いものを吸引するという特異な性質がある。(省略)この自然現象に、科学の立場から挑んだのが16世紀イギリスの科学者W.ギルバートである。(省略)不可思議な現象を起こす力を、まずこの現象の提供者であるエレクトラムの名称からとってエレクトリック(電気性物・起電物体)と命名することにした」との事(「江戸の貨幣物語」(三上隆三著)[東洋経済新報社刊]より)。
ところで、「エレクトロン貨」の素材となる金と銀との自然合金は、どこから入手していたのであろうか。これらは主に、リディアの首都・サルディスの近郊を流れるパクトロス川からだという。これに関連する有名なギリシャ神話があるので、ご紹介する。
「フリュギア王のミダスは、酒神バッカスことディオニソスの友シレノスを助けた。ディオニソスはその礼として、ミダスのいかなる望みもかなえると約束した。ミダスは金持ちになるため、彼の身体にふれるすべてのものが黄金になることを願った。この願望は直ちに約束通りにかなえられた。しかしそのうち、予想だにしなかったことが起こった。彼が手にする飲食物までもがすべて黄金になり、何も口にすることができなくなった。空腹に耐えきれなくなって、喜びは一転して苦痛になってしまった。
かくてミダスはディオニソスに救いを求めることになる。ディオニソスはパクトロス川の水で身体を清めればよいと教えた。早速に教示にしたがって川でみそぎ沐浴をしたので、ミダスはもとの状態に戻り、ようやく空腹を癒す事ができた。沐浴によってミダスの身についていた黄金化怪力が水とともに川に落ちてしまったからである。その結果、パクトロス川からその怪力によるたくさんの砂金がとれるようになったのだというのである」(前掲「江戸の貨幣物語」より)。
以上のように、リディアで世界最古のコイン「エレクトロン貨」が発行されたわけだが、長続きはしなかった。紀元前6世紀の中頃以降、「エレクトロン貨」に代わり、主に「銀」でコインが造られるようになる。これは、
① 古代近東においては、長い間「銀」が主要な取引媒体とされていた
② 「エレクトロン貨」は金と銀との合金だったので、その地金価値を測ることが難しかった
ためである。
世界最古の「銀貨」と「金貨」も、リディア王国最後の王、「クロイソス」(在位560~547B.C.年)によって造られたと言われている。「金貨」、「銀貨」とも「ライオンと牡牛」のデザインで、銀貨の単位は「シグロス」(1/20スタテル)が用いられた。これらの貨幣は、リディア王国がアケメネス朝ペルシャに征服された後も発行されたという(※)。


写真(上 : 表面・下 : 裏面)は「2シグロス銀貨」で、縦径 : 1.3cm、横径 : 2.0cm、品位 : 銀100? 、量目 : 10.40gで、表面にサルディスの紋章である「ライオンと牡牛の頭」が刻印され、裏面には価値を示す長方形のくぼみが2つ打刻されている。
(※)「アケメネス朝はリュディアの都でありコインの発行地でもあるサルデイスを征服すると、そこでデザイン(リュディア王家のライオンと牛)もそのままの金貨、銀貨を発行した。やがて前6世紀末から独自のコインを発行する。(省略)金貨(約8.4g)と銀貨(約5.4g)が発行され、ギリシャ人からそれぞれ「ダレイコス」、「シグロス」と呼ばれた」(「ペルシャ文明展 ―煌く7000年の至宝―」(大津忠彦ほか監修)[朝日新聞社・東映刊]より)。
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(参考文献)
・「江戸の貨幣物語」(三上隆三著)[東洋経済新報社刊]
・「図説・お金の歴史全書」(ジョナサン・ウィリアムズ著)[東洋書林刊]
・「カラー版・世界コイン図鑑」(平石国雄他編著)[日本専門図書出版刊]
・「貨幣から見た世界史・文明の血液」(湯浅赳男著)[新評論刊]
・「カラー版世界コイン図鑑」(平石国雄・二橋瑛夫編・共著)[日本専門図書出版刊]
・「ゴールド」(ピーター・バーンスタイン著)[日本経済新聞社刊]
・知っておきたい「お金」の世界史(宮崎正勝著)[角川文庫]
・「Greek Coins and Their Values VolumeⅡ」(David R . Sear著)[Seaby Publicacations刊]
・「知のビジュアル百科・コインと紙幣の事典」(ジョー・クリブ著)[あすなろ書房]
・「ペルシャ文明展 ―煌く7000年の至宝―」(大津忠彦ほか監修)[朝日新聞社・東映刊]
・「最新世界史図説タペストリー」(川北稔他監修)[帝国書院刊]